鍼灸治療は、東洋医学をベースとした伝統医療で、世界保健機関(WHO)からもさまざまな効果が認められている治療手法です。世界でも認められている鍼灸治療は、中国や日本だけではなく、アメリカやヨーロッパでは日本以上に医療現場での活用が進んでおり、人々にとって重要な医療手法としてグローバルに普及していると言えます。
ここでは、鍼灸のルーツである東洋医学の基礎知識と、鍼灸の歴史について紹介します。
鍼灸師について
鍼灸の歴史・ルーツ
鍼灸のルーツ「東洋医学」とは
東洋医学とは、古代中国の思想を背景に発展してきた伝統医学です。東洋医学は主に三法という方法で構成されており、人が本来持っている自然治癒力を活用する医学と言えます。
-東洋医学の三法-
①漢方
②鍼灸按摩療法
③食物療法
人が病気や怪我をしたとき、西洋医学では治療を主な目的としているのに対し、東洋医学では、病気や怪我の原因となった体の不調を探り、根本原因を取り除くことを目的としています。そのため、東洋医学では患部だけではなく、全身の状態を総合的に診察し、治療をおこなうのが特長です。
東洋医学の治療には、鍼や灸のほか、漢方や生薬などを使用します。よく耳にする「ツボ(経穴)」をはじめ、「アーユルヴェーダ」などの食事療法も、広義では東洋医学のひとつです。
未病を治す東洋医学
東洋医学では、未病(未だならざる病)という考え方があります。これは病気になる前の体の状態のことを言います。
病気は突然なるものではありません。長い間、疲労やストレスなどさまざまな経過をたどって、体は弱っていきます。そんな体を病気から守ってくれるのは、人は本来から持つ「自然治癒力」です。この自然治癒力が正常に機能することは、病気から守ってくれるものです。そして未病は病気ではないけれど、病気になる手前の状態のため、東洋医学では、「未病を治す」という考えのもと治療をおこないます。これが、「予防医学」です。つまり東洋医学では、人間のもつ自然治癒力を引き出しながら、病気を治す一方で、未病を治す力も優れている医学なのです。
長い歴史をもつ鍼灸治療
東洋医学のひとつである鍼灸の歴史は大変長く、約2000年以上の長い歴史があります。
発祥は中国で、紀元前にはすでに中国で広く流行したという文献が残っています。
日本には奈良時代に伝えられたとされ、江戸時代には庶民にも広まったと言われています。
歴史的には鍼医とも呼ばれ、江戸時代から戦後のある時期までは視覚障害者の業種でもありました。
その後、明治時代になると政府の方針で西洋医学が強く押し進められると、鍼灸や漢方などを主流とする日本の伝統的な医学は下火を迎えます。しかし、民間での鍼灸治療に対する支持は強く、国家資格として制定されることになりました。国家資格では、鍼灸師ではなく、はり師、きゅう師として制定されました。
戦後には現在の「あん摩マッサージ指圧師」、はり師きゅう師などに関する法律」の原型である法律が制定されて、日本の鍼灸はより科学的な裏付けが求められるようになり、研究や学会などアカデミックな取り組みも進められるようになりました。
日本での鍼灸の歴史
先に述べた通り、鍼は中国が発祥の地であり、のちに日本に伝わってきました。そのため、中国での鍼と日本の鍼には違いがあります。
日本の鍼は、中国の鍼と異なり非常に細い鍼を用いています。
中国の鍼は、太い鍼を用いることで、より高い効果があるとされていますが、その代わりに痛みが強いのが特徴です。
それに比べて日本の鍼のように細い鍼は、比較的痛みが少ないため、痛みに敏感な日本では中国鍼は普及せず、杉山和一という人物が考案した管鍼法という日本独自の、細い鍼と管を組み合わせた鍼治療は一般化し、日本の鍼治療として現在に至っています。
日本で一般的によく治療に使われる鍼は髪の毛程度の細さなので、熟練したはり師であれば刺したときの痛みはほとんどありません。
これまで鍼灸と言えば、「頭痛」「腰痛」「肩こり」などの痛みを治療するというイメージがありましたが、近年では痛みのない鍼治療を用いて顔に鍼を刺す「美容鍼」が人気となり、小顔効果や美肌に憧れる女性や男性にも話題の鍼治療となっています。
「美容鍼灸師」と呼ばれる新たな鍼灸師の職業も誕生して、より一層鍼灸師の活躍の場が拡がってきています。
東洋医学と西洋医学の融合「統合医療」へ
最近では「人生100年時代」が話題となり、健康寿命の大切さが注目されています。そして、自分の健康は自分で管理していくもの、自己管理をする時代となってきました。それは、病気にならない身体を自ら作るということでもあります。その目的に合致しているのが、未病を治す「東洋医学の三法」のひとつ、鍼灸治療です。体内のバランスを整えて、病気を治し、そして病気になりにくい体に整えていく。鍼灸治療には、自己管理と未病を治すという相乗効果の期待できるのです。
時代の流れは、“西洋医学のみの医療”への見直し時期とも言えるかもしれません。人間の体を総合的に見つめて治療する東洋医学と、これが医療とされてきた西洋医学の双方をお互いに補い、相乗効果を求める統合医療がいま注目されています。
西洋医学の医師が漢方薬を処方する、鍼灸治療を用いて患者様の苦痛を緩和する、看護師が鍼灸師の資格を目指してキャリアアップする、薬剤師の資格を持って製薬会社で長年勤務していた人が西洋医学だけでは限界を感じて、東洋医学である鍼灸師の勉強を始める。このようなキャリアを積んでいく医療人が増えてきています。
東洋医学や鍼灸治療は、いまや中国から世界へと広がってきています。その裏付けとして、2006年にWHO(世界保健機構)によって、経穴部位(ツボの位置)が国際的に標準化され、東洋医学や鍼灸は中国発祥から国際化に向けて発展を成し遂げました。アジアから世界へ。いま医療も新しい世界を迎えようとしています。
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