
50代で日本医専の鍼灸学科 夜間部へ入学。卒業後は高齢者を中心とした訪問鍼灸の現場で
1年経験を積み、その後独立開業した平岡さん。
入学したときから「高齢者鍼灸をやろう」と決めていたわけではありませんでした。
美容、婦人科系、スポーツ、高齢者・小児。
日本医専の「4大鍼灸」を授業やゼミで学ぶ中で、さまざまな可能性に触れ、自分の進みたい道を見つけていったといいます。
鍼灸師になろうなんて、思ってもいませんでした
――鍼灸師を目指したきっかけを教えてください。
平岡さん:
アメリカの大学を卒業して、デパートや外資系企業で働いていました。
30代のときに母が脳出血で倒れて、それをきっかけに仕事を辞め、家業を手伝いながら13年間、自宅で母の介護をし看取りました。
その間に、家族や親しい友人が病気になり闘病しましたが、
何かしてあげたいと思っても、結局見守ることしかできませんでした。
「何かできることがあればいいのに」と、ずっと思っていました。
母を看取った翌年に、自分へのお疲れ様会として1カ月間、一人で海外へ旅に出ました。そこで毎日のように石畳のでこぼこ道を歩いていたら、膝が痛くなってしまって。

帰国後、病院で変形性膝関節症と診断されました。
膝に水がたまって、注射で抜くのですが……これが本当に痛くて!
失神するかと思いました(笑)
何度か水を抜いても、またたまってしまって。
「これからずっと、こんなに痛い思いをしないといけないの?」と思っていたときに、友人から鍼灸を勧められました。
私は注射が本当に怖くて嫌いで、鍼灸を受けるなんて夢にも思っていなかったです。
ところが施術を受けたら、一度で痛みが楽になって。
「鍼灸ってすごい!」と思いました。

そこから定期的に通うようになり、鍼灸師という仕事にも興味を持つようになりました。
7年経った今も一度も膝の水を抜くことはないです。ときどき膝痛がありますが
そのときは自分で自分に鍼をします(笑)
「鍼灸って、こんなにいろいろできるんだ!」
――日本医専に入学した決め手は何だったのでしょう?
平岡さん:
家から近かったこともあります。
また、当時はフルタイムで仕事をしていたので、夜間部の授業開始時間が18時20分だったことも大きかったです。
18時20分の「20分」が、当時はすごく貴重でした!
それと、もう一つはやはり4大鍼灸を学べること。

日本医専では、伝統的な鍼灸だけではなく、美容、婦人科系、スポーツ、高齢者・小児の4大分野について学ぶことができます。
他校と比べても、本当にさまざまな手法があることを知り、学ぶ機会があると感じました。
私は入学した後も、何をしたいのか全く絞れていなかったので
在学中に多種多様な分野を学びながら、自分がどの手法をさらに深めたいのか、どんな鍼灸師になりたいのかを考えられたことは、とてもよかったと思います。
「そんなことも学べるの?」「こんなにも施術の幅が広いんだ!」
「鍼灸って、いろいろなことができるんだ!」もう目から鱗でした。

ベースとなる伝統鍼灸を学びながら、いろいろな分野を知ることができる。
そうすると、実際に臨床に出たときに、患者さんのさまざまな悩みに対応できるようになると思いました。
「これはできません」「ちょっと分かりません」ではなくて、引き出しが増える。
そこがすごく魅力的で「可能性しかない!」と思い、日本医専にしよう!って。
その中で、高齢者鍼灸に興味を持ったのは、やはり母の介護経験も大きかったと思います。
実は母の介護をしている間に、通信教育で社会福祉士と精神保健福祉士の資格を取りました。
介護や看病中、地域の方々に大変お世話になったこともあり、地域福祉に興味があったためです。
「相談援助と鍼灸を組み合わせたら、地域のために何かできるのではないかな」と思いました。

4大鍼灸を学んだから、今の自分がある
――4大鍼灸を学んでいてよかったと感じたことはありますか?
平岡さん:
特に高齢者鍼灸では、鍼の技術だけではなく、高齢者の方への接し方や、施術のときに気をつけたほうがいいことなども教えていただきました。確実に今に活きています。
認知症の患者さんの施術をしている先生から、実際の経験をもとに教えていただけたのも大きかったですね。
それに、高齢者を対象と聞くと「介護で大変」というイメージを持つ方もいると思います。
でも、先生が話してくださった高齢者の方たちは、鍼灸を受けて症状や体調がよくなっていくケースが少なくない。先生もすごく嬉しそうに話してくださるので、「私もやってみたい!」と思いました。

それに、これまで頑張って日本をつくってきた方たちが、人生の最後を「大変だった」と終わるのではなく、
介護する側も含めてよりハッピーに過ごせるようにお手伝いできたら。そう思うようになりました。
だから、本当に4大鍼灸を学べてよかったと思います。
卒業後は訪問鍼灸へ。そして、1年後に開業
――卒業後はどのような道に進まれたのでしょうか?
平岡さん:
卒業後は1年間、訪問鍼灸の会社に入りました。
高齢者のお宅や施設を訪問して、いろいろな患者さんを担当させていただきました。
がん治療後の痛みで悩んでいる方、脳梗塞の後遺症による半身麻痺の方、独居で寝たきりの方……本当にさまざまでした。
最初は、「どうやって施術したらいいんだろう?」と戸惑うこともありましたが
日本医専の先生方や通っていた外部研修の先生に相談し、自分なりに施術を組み立てていきました。現場に出てからも先生に相談できるのは、本当にありがたかったですね。

そして、1年間の経験を経て自分の思ったことをやりたいと独立を決意。
時間や仕事上の制約もありましたし、仕事をする中で、高齢者や地域福祉への思いもどんどん強くなっていって。だったら、自分でやってみようと。
月日はあっという間に過ぎちゃいますから。おちおちしていられないです(笑)
そして、日本医専を卒業して1年後に開業しました。
卒業しても「もっと学びたい」になる
――卒業後も卒後研修を受けているそうですね。
平岡さん:
はい。
卒後研修を今は2つ受けています。
奥田先生の筋カテストと鍼施術、河原先生の中医学です。

これからもいろいろな患者さんに出会い、さまざまな疾患や悩みにぶつかると思います。そのときに、自分の中にたくさんの引き出しがあったほうがいい。
自分のためにも、患者さんのためにも。すごく勉強になります。
もちろん、まだまだ経験が浅いので、実際に現場で、
「この患者さん、なかなか結果が出ないな」
「こういうケースはどうしたらいいんだろう?」
と思うことは多々あります。
そういうときに先生に
「こういうケースの場合、どうしたらいいですか?ほかに方法はありますか?」
と相談すると、すぐにアドバイスをいただけるのが心強く
アドバイス通り実際にやってみると「やっぱりすごい!」ってなるんです!

3年間の勉強が終わったら終わり、ではないんです。
むしろ、「もっと勉強したい!」ってなります!
「感動して、泣きました。」
――この仕事のやりがいや、感動したことを教えてください。
平岡さん:
特に印象に残っているのは、訪問鍼灸の会社で働いていたときに担当していた患者さんから私宛に年賀状をいただいたことです。
そこに「生きる希望をありがとうございます」と丁寧な文字で書かれていて。
感動して、泣きました。

私はただ必死にやっていただけだったので、そのように思っていただいていたとは夢にも思わなかったです。
家族や親しい友人が病気になったとき、何かしてあげたいと思っても、ただ見ていることしかできなかったのが、今は鍼灸を通して、少しでも身体の回復のお手伝いができる。そういう喜びを、少しずつ実感するようになりました。
最近、友人の21歳の娘さんを施術する機会がありました。
1年間月経がなく、なおかつ、病院に行くほどのひどい便秘とのことでしたが、施術の翌日に、たくさんのお通じがあり、4日後に月経がきたと連絡をもらいました。特別な治療をしたわけではありません。
その人が持っている力を鍼灸で引き出すことで、身体は少しずつ変わっていくことができるのだと実感しました。
そして何より、健康のお手伝いができ、喜ばれ、自分も嬉しく、その対価としてお金をいただけるなんて……最高ですよね(笑)
50代からでも、遅くない
――最後に、50代前後で鍼灸師を目指している方へメッセージをお願いします。
平岡さん:
まず、「やりたい」と思ったこと自体が、すごいことだと思います!
鍼灸師って、本当に素晴らしい仕事です。だから、私は強くおすすめします。
50代前後になると、これまでいろんな経験をしてきていますよね。
仕事もしてきた。家族のこともあった。いろいろな人にも出会ってきた。
そういう経験って、全部無駄ではないと思うんです。
私も50歳を過ぎて「もう半世紀生きたしな」と思いました。

でも、人生100年時代と言われている、まだまだ先はある。
「残りの人生でもう一度くらい、一生懸命勉強して、何かを得てもいいんじゃないかな」
って思ったんです。
学校の3年間は長いと思うかもしれません。でも、本当にあっという間です。
「鍼灸師として何をやりたいか」決まっていなくても大丈夫。
私も決まっていませんでした。
4大鍼灸、とにかく全部やってみてほしいです。
美容も、婦人科系も、スポーツも、高齢者・小児も。
その中で、
「これ、面白い!」「もっとやってみたい!」
というものが、きっと見つかると思います。
それに他の人にだけでなく自分自身にも施術できますし!
「夢を見るのは自由ですから」
――これからの夢はありますか?
平岡さん:
今は出張専門なので、近い将来は店舗を持ちたいです。
それから、高齢者と若者が一緒に暮らせるシェアハウスみたいなものも作れたらいいなと思っています。
そこに小さな鍼灸院があって、人が集まれるカフェがあって。
そんな素敵な場所ができたらと想像するとわくわくしてきます。
夢を見るのは自由ですから。
さて、まずは宝くじを買わないと!(笑)

